猫かぶりな伯爵の灰かぶりな花嫁
笑い声の二重奏が薔薇園に響き渡る。今度こそそれはグレースに向けられているものなのだが、青空を突き抜けていく明るさはまったく不快に感じなかった。

「姫。恐れ多くもこの国の王子と猫を同列に扱うなど……」

ラルドはもっともらしく苦言を呈するが、笑い声を押し殺しながらでは説得力などまるでない。一方でロザリーは目尻に浮かんだ涙の粒を指先で弾いて、少女のように目を丸くした。

「トビーはそんなに大きな猫なのですか?」

少し前まで腕の中にあった温かい重みを猫の姿に置き換えようとして失敗し、眉尻を下げた。

「ええ、とっても大きくて重たいのよ」

こーんなに、とかなり誇張し本を持った手を振り回してみせる。それを見たふたりは、いつの間にか庭園を散策中の人々の視線が集まっていることも気にせず、さらに笑い続けた。

だが、突然ロザリーが咳き込む。どうやら笑いすぎたらしい。ラルドは瞬く間に紅潮していた顔を青ざめさせた。

「大丈夫ですかっ!」

すぐさま飛んできた侍女が背中をさすると、少し呼吸の落ち着いた彼女の口から力のない笑みとともに謝罪の言葉が零れる。

「ごめんなさいね。もう大丈夫です。少しはしゃぎすぎました」

「ロザリー様、少し風も出てきたようです。お部屋に戻りましょう」

顔色の悪さに眉を曇らせた侍女が主を促し、ロザリーもそれに素直に頷く。最後に名残惜しむよう満開の薔薇を眺めてから、ふうわりと儚く微笑んだ。

「それじゃあラルド、またあとでね。グレース様も今度お茶をご一緒しましょう。ヘルゼント家の香薬師が調合する香茶はとても美味しいのですよ」

「ええ、きっと。そのときは、母が焼いたお菓子をお持ちします」

ロザリーはごくごく普通の別れの挨拶をして、その場を去って行った。

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