猫かぶりな伯爵の灰かぶりな花嫁
「久しぶりって、いまさ、らっ!?」
グレースは吐息を吹きかけられた耳を押さえる。
「つれないですね。さっきはあんなに積極的だったのに」
「あれは……」
自分から唇を合わせたこと。その後ラルドと交わした口づけのこと。すべての感触が口元に蘇り、また身体に熱がぶり返す。
「おっしゃるとおり。いまさらですよ、夫婦なのだから」
羞恥に頬を染めていたグレースは、平然と顔を近づけてくるラルドの胸を押し戻した。
「先に必要ないと言ったのは貴方よ」
「そんなこと、まだ覚えていたんですか」
過去の失言を指摘されたラルドは、責めるようなグレースの瞳から顔を逸らして歪ませる。小さな舌打ちまで聞こえてきた。よく見れば彼の耳がほんのりと赤い。
それを確認したグレースがにやりと笑う。
「忘れてあげてもいいわ。その代わり、お願いがあるの」
途端に強気になったグレースを怪訝に感じながらも、ラルドが続きを訊く。
「今日の件でマリたちを責めないであげて。勝手なことをしたわたしがいけないのだから」
護衛役が不用意に護衛対象から離れたことや、居眠りをして主の動向を把握できなかったこと。どちらも、職務怠慢を理由に首を切られたとしても文句は言えない。伯爵家を解雇となれば、次の職を探すのも難しくなるだろう。それに――。
「マリの主人はわたしよ。どうしても処分をというのなら、下の者の監督不行届でわたしが責を負う」
「しかし、それでは……」
案の定渋るラルドは、他の者に示しがつかない、そう言いたいのだろう。だが、グレースはある確信をもって引かなかった。
「みんなで黙っていればいいの。ラルドだって、そのつもりでここへ連れてきたのでしょう?」
目を腫らしたマリをそのまま帰すわけにはいかないと、先に言ったのは彼だ。
問い詰められ、ラルドは肩をすくめて苦笑する。
「まあ、それもひとつの理由ですが」
言い負かした気になり得意顔でいたグレースは、肩を押されて長椅子に倒されてしまう。覆い被さってきたラルドで、仰向けの視界がいっぱいになった。
「いいでしょう。彼女らの不手際は今回に限って見逃します。ただし、居眠りをしたマリに代わって、今夜は貴女を寝かせませんから」
「なっ、なんで、条件が増えるのよ?」
甘く妖しい光を湛えた瞳に搦め捕られて、グレースの声が掠れる。
「こちらは二人を許すのです。当然ではありませんか」
再び求められれば、グレースにもう拒むことなどできない。彼の熱い想いとともに受け入れる。
渇いていた口はラルドで満たされ、熱を持ったままの唇がグレースの首筋を下りていく。胸元のボタンはいつの間にか外され、白い肌が晒されていた。
グレースは吐息を吹きかけられた耳を押さえる。
「つれないですね。さっきはあんなに積極的だったのに」
「あれは……」
自分から唇を合わせたこと。その後ラルドと交わした口づけのこと。すべての感触が口元に蘇り、また身体に熱がぶり返す。
「おっしゃるとおり。いまさらですよ、夫婦なのだから」
羞恥に頬を染めていたグレースは、平然と顔を近づけてくるラルドの胸を押し戻した。
「先に必要ないと言ったのは貴方よ」
「そんなこと、まだ覚えていたんですか」
過去の失言を指摘されたラルドは、責めるようなグレースの瞳から顔を逸らして歪ませる。小さな舌打ちまで聞こえてきた。よく見れば彼の耳がほんのりと赤い。
それを確認したグレースがにやりと笑う。
「忘れてあげてもいいわ。その代わり、お願いがあるの」
途端に強気になったグレースを怪訝に感じながらも、ラルドが続きを訊く。
「今日の件でマリたちを責めないであげて。勝手なことをしたわたしがいけないのだから」
護衛役が不用意に護衛対象から離れたことや、居眠りをして主の動向を把握できなかったこと。どちらも、職務怠慢を理由に首を切られたとしても文句は言えない。伯爵家を解雇となれば、次の職を探すのも難しくなるだろう。それに――。
「マリの主人はわたしよ。どうしても処分をというのなら、下の者の監督不行届でわたしが責を負う」
「しかし、それでは……」
案の定渋るラルドは、他の者に示しがつかない、そう言いたいのだろう。だが、グレースはある確信をもって引かなかった。
「みんなで黙っていればいいの。ラルドだって、そのつもりでここへ連れてきたのでしょう?」
目を腫らしたマリをそのまま帰すわけにはいかないと、先に言ったのは彼だ。
問い詰められ、ラルドは肩をすくめて苦笑する。
「まあ、それもひとつの理由ですが」
言い負かした気になり得意顔でいたグレースは、肩を押されて長椅子に倒されてしまう。覆い被さってきたラルドで、仰向けの視界がいっぱいになった。
「いいでしょう。彼女らの不手際は今回に限って見逃します。ただし、居眠りをしたマリに代わって、今夜は貴女を寝かせませんから」
「なっ、なんで、条件が増えるのよ?」
甘く妖しい光を湛えた瞳に搦め捕られて、グレースの声が掠れる。
「こちらは二人を許すのです。当然ではありませんか」
再び求められれば、グレースにもう拒むことなどできない。彼の熱い想いとともに受け入れる。
渇いていた口はラルドで満たされ、熱を持ったままの唇がグレースの首筋を下りていく。胸元のボタンはいつの間にか外され、白い肌が晒されていた。