白い雪が降り積もるように
「あの、玖下さん。最近依良様の外出が増えたのは何故ですか?」
隣を歩いていた玖下さんは私の言葉にチラリと私を一瞥すると、再び前を向いた。
「……聞いてどうなさるおつもりで?」
玖下さんは多分、その情報で私が蓬條依良を殺す目論んでいるのだと思っているのだろう。
まあ、当たらずとも遠からずだけど。
「どうもしませんよ。ただ、気になったので……」
「そうですか。でも、依良様に口止めされているので私の口からは申せません」
玖下さんは前を向いたままそう告げて、私が向かおうとしている方向とは逆方向に歩いていってしまった。
ポーカーフェイスで感情が読み取りづらい彼だけど、辛い過去を持っている。
実の弟を主のために殺してしまったという過去……。
それを他人事とは思えない。
私には植物状態のお姉ちゃんの命を終わらせる権利を持っている。
私が安らかに眠らせてあげてと言えばお姉ちゃんの身体に繋がれた機器は外され、お姉ちゃんは死んでしまう。
そうすれば、私は玖下さんと似たような立場になる。
でも、今はそんな決断は出来ない。
もしも、そんなときが来たら私はその決断を出来るだろうか?
実の姉の命を終わらせるようなことを──。
小さくなっていく玖下さんの背中を見ながら、彼のしたことが他人事ではないのだと感じてしまった。