こくおうさまのすきなひと
セシリア・フェルゼン・ラーミア公爵令嬢。
まだ私が第一王子で遊び呆けていた頃、駆け引きを楽しんで深い仲になりつつあった女性のひとりだ。
互いが本気ではない、遊びの駆け引き。
しかし父が今も存命であれば、結婚相手の候補としてセシリアが上がっていたであろう。
セシリアはこの国でも由緒ある名家、ラーミア公爵家の長女。
身分的にも十分に釣り合いは取れる。
貴族としての振る舞いはもちろん外見もとても美しく、燃え上がるような感情こそなかったが、いずれその気持ちも芽生えるものだろうと思っていた。
そんな折に父の崩御。
私の人生はめまぐるしく変わり、連絡を取ることすらせずに時は過ぎてしまって、気付けば自然消滅のような状態になってしまっていたのだが……。
「ご結婚おめでとうございます。まさかこんなにも早く、ご結婚なされるとは思ってもみませんでしたわ」
「あ、ああ、すまない。父が亡くなってからというもの、色々とあってな……」
「急に国王様になられたのですもの、貴方だけの問題では無くなりますから、仕方のない事ですわ。でも、せめて一言あっても良かったとは思いますけれど?」
「それは……」
「それとも、私とはもう関わりを持ちたくなかったのですか?」
セシリアは扇を広げ、口元を隠し笑いながらそう話す。
しかし目だけは笑っていなかった。
その瞳に込められた怒りに、何も言えなくなってしまう。