こくおうさまのすきなひと
セシリアは呆れたようにため息をつく。

そして小さな声で呟いた。


『好きな人……ね。そんな方と一緒になれたら、どんなに幸せでしょう。今の私には残酷な言葉ですわ』


そう言って私を睨む。

しかしすぐにその目線を横に外し、そして私に背を向けると、出口に向かって歩き出した。


残酷な言葉を言ってしまったのは、十分に自覚がある。

お互いに想い合っての結婚など、貴族であればほとんどないのだから。

しかしそれでもいつかはお互いに、愛し愛される関係になれる可能性はあるだろう。

私意外の男であれば、必ず……。


『国王様って、案外つまらないお方だったのですね。もう少し手慣れていて楽しめるかと思っていたのに』



それはセシリアなりの強がりであろう。

その言葉が本心ではない事は、ここにいる全員が分かっていた。



だから、セシリアがそう私に言い放っても誰も咎めようとはせず、セシリアがそこから出ていくのを静かに見守っているのみであった。
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