こくおうさまのすきなひと
……そう。

あの時手が触れた瞬間、他の人を想い抱きしめた手で私に触って欲しくないと、無意識に思ってしまった。

その腕もその手も全て私の為のものではなく、抱きしめたという"その人"のものなのでしょう?と思ってしまって。


ふつふつと心の中にしまっていた想いが、あの時あの一瞬で一気に溢れてしまった。


嫌だ、このまま触れていたくないと、思ってしまった。



……だけど。

目の前の国王様はとても傷付いた表情をしていて。

そんな国王様を見て、ハッと我に返った。


弁明しようと思ったけれど、言葉は出てこない。

喉元まで言葉が出かかっているのに、国王様が部屋からいなくなるまで、それを声にして発する事が出来なかった。



貴方には、本当に好きな方がいらっしゃるんでしょう?

なのに、どうしてそんな顔をするの?


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