こくおうさまのすきなひと
祈りを終え、部屋を後にする。

部屋を出る前に、もう一度部屋を一通り眺めて、それから出た。

次にこの部屋に来る時は、いつなのだろう。
もう二度と、足を踏み入れる事はないのかもしれない。

そう思うとやはり胸が苦しくなる。


部屋だけじゃない。


今歩いている廊下も、目に映る装飾も壁も、嗅ぎ慣れた城の臭いも全て、もう二度と見る事も感じる事も出来ないかもしれない。


そう考えたら、足が前に進まなくなった。

動かす足がとても重く感じて、歩を進める事が出来なくなる。



「――……ミネア王女?」


先を歩くティアが、私が後に続かないのに気付き、振り向いて声を掛けた。


「……ごめんなさい」


俯く私の前に、ティアは小走りで駆け寄ってくれる。


「手をお貸ししますわ。ひとりでは歩きにくいですよね。気遣いの出来ない侍女で申し訳ありません」

「そんなこと気にする必要なんてないわ、ティア。……ありがとう」


差し出されたティアの手を取り、ようやく少しずつ歩みを進める事が出来た。


きっと私が動けなくなった本当の理由に、ティアは気付いていたはずだ。


だけど、今それを気遣う言葉を言ってしまったら、私はますます動けなくなると知っていて、敢えてそれを言わないでくれたのだろう。


その心遣いが嬉しくもあり、苦しくもあり。


けれど、ティアが私の侍女で本当に良かったと、その時改めて思った。
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