こくおうさまのすきなひと
予定では、アーネスト王女一行の到着が夕方なのだという。

それまで私は通常通りの公務をこなし、傍らで迎えの準備を進めた。


王女一行が来てすぐに、そのまま簡易的な儀式を行うということもあり、正装に身を包む。


重いジャケットに加え、これまたやたらと重い長く厚いマント。

中に着ているシャツは、首元までしっかりとボタンを止められて、息苦しくてしょうがない。



加えて滅多に着ける事のない王冠に頭を締めつけられ、キリキリと痛む。


「この正装だけは、何回来ても慣れない。早く脱いでしまいたいものだ」

「今着たばかりですよ、国王様。我慢下さいませ」


着替えを手伝う侍女が、呆れたように言った。


普段は動きやすいというだけで軍服を着ているから、余計に窮屈に感じてしまうのだろう。


……いや、それだけじゃないかもしれない。

やはり、これから先の事。


それも、苦しいと感じる要因のひとつなのだろう。


確かに、この国は失くしてはならない大切なもの。

平和で笑顔の絶えぬ、このアーハイムという国を守る事が私の使命。

私ひとりの不幸と引き換えに、この国の平和が保たれるのなら安いものかもしれない。


しかし、心の中ではそう思っていても、どうしても納得が出来ないでいる。


もし私が国王でなかったならば。

まだ父が生きていたのならば。


違う運命が待っていたのだろうか――……。


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