こくおうさまのすきなひと
――コンコン。
扉を叩く音が聞こえる。
涙を胸元に忍ばせたハンカチで拭って、扉の向こうにいる者に声を掛けた。
「どなた?」
「――私だ」
それは国王様の声だった。
慌てて扉を開ける。
国王様もまた、先程とは違う軍服のような服を着て、扉の前に立っていた。
「だいぶ遅くなってしまったが、夕食の時間だ。共に行こうと思ってな」
国王様は少し目線を下に逸らして、ぶっきらぼうに言った。
夕食……。
今まで忙しく疲れてしまって、あまり食欲がなく食べる気も起きないのだけれど、けれど国王様自らこの部屋にいらっしゃったのに、断るわけにもいかない。
「わざわざありがとうございます、国王様」
「――アルスだ」
「え?」
「国王様などと、堅っ苦しく呼ばなくていい。アルスと呼べ」
「あ、は、……はい」
感情の読み取れないトーン。
機嫌がいいのか悪いのか分からない。