こくおうさまのすきなひと
国王様に一礼をし、食堂を後にする。

部屋へと戻る途中、ティアは少し笑いながら言った。


「国王様、随分と動揺していましたわね。あれくらいの容姿の方ですもの、手慣れていらっしゃるのかと思っていましたが、案外奥手だったりして」


「まさか!そんな訳ないわよ!だって、とても顔が怖かったわ。きっと気を重くしての事だと思うけれど」


「え~……、そうでしょうか。あの反応、そうは見えませんでしたけれど」


ティアは納得がいかないのか、そう言葉を返した。

確かにいきなりフォークを落として、動揺したようにも見える。

だけど、その時の表情がとても厳しいものだったから、私にはどうしてもそうは思えなかった。


「もう、ティア!国王様の事をそんな風に言っては失礼よ!あれだけの方ですもの、私と夫婦になるのが不服なのだと思うわ。仕方ないわよね、私そんなに綺麗でもないし」


「そんな事ありませんよ!自信を持って下さいミネア王女様!王女様はとても綺麗ですよ?加えてとても心も美しいお方。そんな風にご自分を卑下なさってはいけません!」


ティアは強く私に言った。

先程まで笑っていたのに、とても真剣な表情に変わっている。

ティアの言葉に、少し救われた。


「ありがとう、ティア。そうね、自分の事をそんな風に言ってはダメね。ごめんなさい」

「そうですよ、ミネア王女様。……さ、早くお部屋に戻って湯浴みを致しましょう。ゆっくりとしていては、国王様がいらっしゃってしまいますから」


部屋に戻り、一息つく間もないまま、湯浴み場へと向かって身を清めた。

その後は念入りに香油を身体に塗り、濡れた髪を綺麗に梳かす。



そして真っ白なナイトドレスに着替えると、夫婦の寝室へと向かった。
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