【完】『轍─わだち─』
その頃。
さくらと大輔は全く別行動で、横須賀のホテルのベッドの上に姿があった。
「…ね、大輔」
「?」
大輔の目線の先には、脱ぎ散らかしたさくらのワンピースや下着があった。
さくらの目は少し潤んでいる。
「ごめんね、うちのパパ…頑固だからさ」
「気にしてはないさ」
大輔はさくらの髪を撫でた。
「ああいう昔気質の職人ほど、バイヤーが何回も通って口説けば物産展の常連になってくれるって話だから」
事実。
バイヤーが何年もかけて口説き落として出店に漕ぎ着けた店は、いくつかあるらしい。