【完】『轍─わだち─』
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数日が、経った。
つばさが所属する事務所の椅子でマネージャーと打ち合わせをしていると、
「つばさ、おっはよー!」
と、岐部まりあの声が聞こえてきた。
「あ、岐部先輩おはようございます」
「そういえばさぁ、こないだパティシエと婚約したあとの旅行、湯河原だったんだって?」
どこから聞いたのか、まだマネージャーと社長しか知らないはずの旅行の話を、まりあは知っていた。
「あんまり大きな声、出さないでください」
つばさは渋い顔をつくった。
「ごめんごめん、まさかシークレットだなんて知らなかったよ」
と言いながら、悪びれる様子はない。