【完】『轍─わだち─』
まりあは続けた。
「だから、つばさも答えられるはず」
つばさは困り果てたような顔をしていた。
「…ないの?」
まさかないってことはないよね、婚約者なんだしさ…とまりあは隙のない言い方をした。
つばさはうつむいたまま、
「…ごめんなさい」
そう言ったまま顔を両の手で被い、泣き出してしまったのである。
「こっちこそごめん」
まりあはまさか泣き出されてしまうとは考えてもなかったらしく、
「つばさ、ごめんってば。私が言い過ぎたよね」
まりあが今度は困り果ててしまった。
「…何か遭ったのかも知れないね。あんまり踏み込まないほうが、いいのかも分からないね」
耀一郎はハンカチをつばさに渡して、水平線の先にあった江ノ島の島影に、目線を投げやった。