【完】『轍─わだち─』

しかし。

仮にも先輩の彼氏である。

なのでつばさは、

「…優しくなんかしないで、気持ちが変になっちゃうから」

と、なるだけ深入りしないことを、意識的に習慣付けて行く選択をした。

それは。

決して間違いではなく、むしろ彬を選んで間違いはないという意思を表示する、ある種のあらわれでもある。

それは、

「パティシエで経営者と結婚したほうが、金銭面で不安な要素がない」

という、実に生々しくも実際には大事なリスクの回避という側面があったことは否めないであろう。

事実。

そうした結婚はよくある。

だからつばさもそこは後ろ暗さは感じなかったし、

「いいなぁ、会社経営者って玉の輿じゃん」

などと言われることもある。



< 26 / 72 >

この作品をシェア

pagetop