【完】『轍─わだち─』
ただ。
当然ながら嫉妬ややっかみも、ないではない。
後輩のモデルからは、
「ベッドでどんなテクニック使ってたぶらかしたんだろうね」
などと、聞こえよがしに背後から浴びせられることもあった。
そういう話をすると彬は、
「うーん」
と言うだけで要領を得ず、ひどいときなんぞは、まともな答えも返ってこない。
が。
耀一郎は違って、
「まぁ世の中はそういうものさ、誰もが善人な訳ではないし、他人の不幸は蜜の味だからね」
むしろ目一杯幸せになって蜜も味わえないようにするのがいい、とシンプルで明快なのである。
まりあもその手法で、
「私は英語と日本語がごちゃごちゃになっちゃうんだよね」
などとバイリンガルのモデルが英語をひけらかし気味に言ってきたときに、
「あ、それで話が噛み合わないんだね」
と、一撃で仕留めたこともあった。