【完】『轍─わだち─』
8
そうしたなか。
つばさがロケで金沢に来ていた日の夜中、ホテルで食事の撮影のスタンバイをしていたとき、
「つばさちゃん、兼康さんから電話です」
とマネージャーが慌ただしく、携帯電話を持ってきた。
「はい変わりました」
「もしもし、つばささんですか?」
声は彬ではない。
ちょっと舌っ足らずな言い回しは、さくらの特徴でもある。
「あら、さくらちゃんどうしたの?」
「実は…お兄ちゃんが」
さくらは電話口の向こう側で言葉を選んでから、
「お兄ちゃん、一週間ぐらい前から連絡つかないんです」
予期すらしない言葉に、つばさは全てが一瞬、固まった。
「それでママが、もしかしたらつばさちゃんなら何か知ってるかなって」
番号は、たまたまさくらが知っていたからといった理由で、かけたものらしかった。