【完】『轍─わだち─』
当然だが。
馬車道の兼康の店には情報番組や雑誌、スポーツ紙の記者が貼り付く。
「彬さんがいないだけでも厳しいのになぁ」
と従業員も次第に歯が抜けるように、いなくなってゆく。
ヘッドハンティングもあった。
さらに。
弘明寺の例の兼康御殿まで、記者がうろつく事態となってしまったのである。
これに閉口したのは母の百合子で、
「庭の水やり程度でも化粧しなきゃなんないじゃないの」
とこぼした。
当たり前だがつばさも、蒲田の自宅から出る際に記者が追っ掛けてくる騒ぎとなり、さすがにこれには日頃は笑顔を絶やさないつばさも、
「さすがにしんどいわぁ」
と、思わず京都弁が出てしまうほど困じ果てていたらしい。
テレビをつければ毎朝つばさの話題で、スポーツ紙を拡げてもつばさの記事が目につく。
一人のパティシエが失踪したというより、モデルの彼氏が失踪したという事案は、ネットで物議を醸す件へ次第に膨らんでいったのであった。