【完】『轍─わだち─』

当然だが。

馬車道の兼康の店には情報番組や雑誌、スポーツ紙の記者が貼り付く。

「彬さんがいないだけでも厳しいのになぁ」

と従業員も次第に歯が抜けるように、いなくなってゆく。

ヘッドハンティングもあった。

さらに。

弘明寺の例の兼康御殿まで、記者がうろつく事態となってしまったのである。

これに閉口したのは母の百合子で、

「庭の水やり程度でも化粧しなきゃなんないじゃないの」

とこぼした。

当たり前だがつばさも、蒲田の自宅から出る際に記者が追っ掛けてくる騒ぎとなり、さすがにこれには日頃は笑顔を絶やさないつばさも、

「さすがにしんどいわぁ」

と、思わず京都弁が出てしまうほど困じ果てていたらしい。

テレビをつければ毎朝つばさの話題で、スポーツ紙を拡げてもつばさの記事が目につく。

一人のパティシエが失踪したというより、モデルの彼氏が失踪したという事案は、ネットで物議を醸す件へ次第に膨らんでいったのであった。



< 34 / 72 >

この作品をシェア

pagetop