【完】『轍─わだち─』
そんな日が何日間か続いた朝。
次は玄関から出勤しようとした父の穣が、記者と小競り合いになったのである。
職人気質で口が重い穣は無言でいたが、記者の執拗な質問責めにどうやら我慢がならなかったらしく、
「…邪魔だ、このゴミ!」
と記者の腕を払った。
すると、
「ゴミとはどういう意味ですか?」
記者が食い下がった。
「お前たちマスコミのことだ」
穣が言い返した。
このとき。
穣が一番まずかったのは、記者の顔を殴った瞬間がカメラにとらえられて、全国に放送されたことである。
それは繰り返し放送され、
「あれは明らかに暴行ではないのか?」
というコメンテーターの弁護士の発言が決定打となって、
「逮捕状の請求が出た」
という速報のテロップまで出たのである。