【完】『轍─わだち─』
ほどなく。
どうにも運転の資金が回らなくなった馬車道の店は手放すことになり、百合子は店を売って裁判の金に回すことになった。
明治の頃から続いてきた洋菓子屋がなくなると分かった日、しばらく足が遠退いていた客が詰めかけ、あっという間にケースは空になった。
「いつもこうならこんなにならなかったんだけど、まぁ出来の悪い亭主でしょうがない」
と、記者を殴った穣が原因であると百合子は断言していた。
相手の怪我は軽かったものの、
「自由を認められた報道に対する挑戦であり、暴挙である」
という大義名分を振りかざしていただけに、どうにも芳しくない状況で、打開は出来ずにいる。
このままでは良くない、と百合子も考えたのか、
「大輔くん、うちのさくらと将来どうしたいの?」
と身の振り方を訊ねた。
大輔は、
「もちろん大切には考えてますが、このままではさくらにも良くないのかなと」
と、身を引くようなニュアンスを漂わせてみせた。