【完】『轍─わだち─』
いっぽうで。
当の彬は、小樽まで逃げていた。
最初どういったつてを頼ったのか札幌へ来たものの、思ったような職が見つからなかったらしい。
しかし。
たまたま住み込みで働いていたススキノの居酒屋の客に小樽の保険の代理店の支店長というのがあって、
「あそこの会社でパティシエを探してるみたいなんだけど」
と、小樽のケーキ工場の、宿舎つきの仕事の口を紹介してもらった。
斯くして。
小樽の中心街から少し離れた銭函の工場で、生クリームのデコレーションを担当するようになったのである。
しかも。
ススキノの頃に知り合ったガーネットという外国人と、同棲までしているのだというのである。
そこまで聞いたつばさは、何か吹っ切れたものがあったようで、
「やっぱり、私なんかじゃ不満だったんだね」
と笑いながら冗談めかして言ったが、
「却って痛々しい」
とまりあに言い返される有り様であった。