【完】『轍─わだち─』
それからほどなくして。
例の記者を殴った事件で逮捕されていた穣の裁判が、ついに始まった。
その間に精神鑑定や公判前の整理がおこなわれ、
「まぁほぼ有罪よね」
と百合子ですら読んでいたようであった。
初公判の朝。
東京には珍しく雪が降り、轍にタイヤをとられたタクシーが尻を振って、中には坂の真ん中で往生する車すらあった。
バレンタインが直前の雪に、普段なら売り上げが下がるとわめく百合子も、
「たまには雪の日も悪くないわね」
と、仕事に振り回されないで済む日をひさびさに謳歌していた。
そのいっぽうで。
さくらは裁判の傍聴には行かなかった。
「私はパパの人形じゃないし、大ちゃんと一緒になりたいから」
と、大輔と同棲することを決意していたようである。