【完】『轍─わだち─』
その時期。
例の穣の裁判は尋問を迎えていた。
弁護人、検察、裁判官と入れ替わり立ち替わりするかのごとく、殴ったときの状況やら心境やらを繰り返し問われる。
だんだん穣は顔が険しくなって、
「さっきも言ったろうが」
「それはさっき答えたから知らない」
と、繰り返し訊かれるのにうんざりした様子を露骨なまでに出して、隠そうともしなかった。
すると裁判官は、
「イライラするのは分かりますが、これは裁判です。記録が残りますから、面倒でも答えてください」
と忠告気味に言ったのだが、それが余計に癇に障ったようで、
「どうせ有罪なんだろ」
と開き直った。
傍聴席の百合子は渋い顔を作って、
「あれでは話にならない」
と脇に座る大輔にささやいた。