【完】『轍─わだち─』
当の穣は、
「だいたい向こうが取材と言って、しつこくつけ回るからこうなった。それでもこっちが有罪なら、こんな勿体ぶらないで、さっさとやっつけ仕事で判決でも何でも適当に出せばいいじゃないか」
とまで言った瞬間、表情が強張った。
しばらく眼を見開いたまま微動もせず、やがて穣の体は証言席の床へ崩れ落ちた。
はじめは何事かわからなかった。
が。
穣の体調に異変を来しているのが分かったのは、倒れて穣の口から、それまで聞いたこともないような、いびきのような声がしたからである。
「…もし、大丈夫ですか?」
弁護人の事務方が揺すったが反応がない。
次第に法廷はざわつく。
「ひとまず救急車を。いったん休廷とします」
裁判官は座を立つと、そのまま我関せずとばかりに退席した。