【完】『轍─わだち─』
休廷とは言ったものの法廷は騒然としていた。
明らかに何か発作が起きたのである。
記者は廷内の一部始終を知らせに蜘蛛の子のように走り散る、事務員が飛んでくる、救急隊は来る…と、裁判所の廊下は灰神楽の立つ騒ぎで、
「百合子おばさん、これって一大事ですよ」
と大輔はすでに顔がひきつっている。
が。
百合子は案外冷静で、
「…もしかして、中ったかな」
と言った。
「…あたった?」
「うちの人、高血圧だったからね…だから脳とか心臓とか危ないからって、あれほど言ってたのに」
百合子は席を立った。
「大輔くん、もうさくらを幸せにできるのは、あなたしかいないみたいね」
とだけ言うと、百合子は焦る風も見せず歩き始めた。