【完】『轍─わだち─』
耀一郎は帰ろうとした。
が。
「もし、辻さん」
百合子が引き留めた。
「うちは見ての通り男手が少なくて、差し支えなければ手伝ってもらえないか」
もちろん礼ははずむ、と言った。
「別にそれはいいです」
自分は送りに来ただけですから、とお辞儀をした。
そこへ大輔が戻ってきた。
「…おい、逃げるのか」
大輔は底響きのする声を出した。
今までさくらも、つばさも百合子も聞いたこともないような声である。
しかし。
耀一郎はむしろ逆手に取って、
「これだけ迫力のある方が一人いれば、私なんか出る幕もないから大丈夫でしょう」
と再びお辞儀をして、その場を離れた。