【完】『轍─わだち─』
翌朝。
穣は息を引き取った。
別に耀一郎は何の関知もなかったが、
「なんで帰ったの?」
とあとからまりあがなじるように問い詰めると、
「…あの男のこと、知ってるんだよ」
と耀一郎は、大輔を指した。
「ダァって大ちゃんのこと知ってたの?」
「まぁね」
しかし。
耀一郎は大輔のような一流大学の出ではない。
「じゃあ何で」
「彼は間違えてなければ、コマーシャル関係のサークルの所属だったはずだけど、いわゆるいろんな噂がこっちの耳まで入っててね」
というのも。
御用邸の近くにある合宿所で、女子大生に酒を無理に飲ませた上で濫妨に及んだり、乱痴気騒ぎを起こしては警察沙汰になったり…と良からぬ噂がはびこっていたのを、耀一郎は聞いていたようであった。