【完】『轍─わだち─』
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それからほどなく。
穣の裁判が打ち切りとなり、いわばマスコミからの波状攻撃からは何とか逃れたかたちとはなったのだが、
「いまさら馬車道の店を買い戻すったってねぇ」
と、百合子はもう関わりたくないといったような顔を作った。
その頃。
小樽の工場にいた彬に、変化があった。
「アッキー、あのね…」
出来たみたいなの、とガーネットが妊娠した…というのである。
しばらく彬は考え込んでいたが、
「アメリカに行こうか」
と、ガーネットの母国への渡航を口にした。
「なんで?」
「日本にいても、メリットは少ないんだよね」
そこからの彬の行動は、
「背に羽が生えた」
と言われるほど迅速であったらしく、あれほど気に入っていた愛車を、高値で買う見積もりを出した札幌の業者に売って、身辺の物もすっきりさせた上で、
「さ、行こうか」
と、安定期に入ったばかりのガーネットと、千歳の飛行場からまずハワイに向けて、出発したのである。