【完】『轍─わだち─』

彬が日本を脱出したという話が弘明寺の兼康家に伝わってきたのは、出発してから半月以上も過ぎた、桜の時期になってからである。

この頃になると百合子も彬についてはすっかり諦めたようで、

「こうなったら仕方ないわね」

と、彬を戸籍から抜く手続きをとっている。

一連の騒動で半年あまりの間にすっかり老け込んでしまった百合子は、

「あんたたち早く入籍しちゃいなさいよ」

と、さくらと大輔に結婚をすすめた。

大輔は躊躇したが、

「ママもあぁ言ってるしさ」

と、さくらは早くも乗り気になっていた。

が。

しばらくして年度が変わってすぐ、

「もしもし、兼康百合子さんでいらっしゃいますか?」

と、銀行から電話がかかってきた。

「おかしいわね」

百合子は首をかしげた。

口座の金銭は百合子が一括で管理しており、帳簿上は何の問題もないと、税理士からお墨付きをもらったばかりである。



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