【完】『轍─わだち─』
取り敢えず窓口に百合子が行くと、別室へと案内された。
「実は当銀行で、こちらの口座の確認作業をしておりまして」
と印刷された履歴を担当が指しながら、
「こちらのお金は、どういう流れなんでしょうか?」
と、見たこともない不明金の流れがあることが、指摘されたのである。
見ると、
「こちらの兼康穣さまから、こちらの橋元静加さまへお金が払い込まれておりまして」
それは馬車道の店を手放す直前あたりまでの日付が、最後になっていた。
「手前どもで確認させていただきましたが、判断できませんでしたので、従業員さまかご親族でいらっしゃるかどうか、ご確認をいただきたいということで、ご連絡を差し上げました」
百合子はキョトンとした。
少なくとも橋元静加という従業員は馬車道にはいない。
「では、部外者ということになりますね?」
「何か関連があるんですか?」
「実は相続の手続きで、仮にこの橋元さまが兼康穣さまと何らかのご関係があった場合、相続の権利が派生するかしないかという重大な問題がございまして」
行員は言った。