【完】『轍─わだち─』
つまり。
相続人が増えるかもしれない、ということなのである。
「兼康さまは遺言状を残さないで他界してらっしゃいますので、こちらの口座に関しましては、裁判所で相続の権利がある方々全員の同意がございませんと、勝手に解約を出来ないことになっております」
百合子は顔から血の気が引いていった。
というのも。
この口座の金を、さくらと大輔の結婚の費用にあてがおうとしていたからである。
帰ってから百合子は、銀行でもらったコピーをもとに、橋元静加がいるとされる磯子に向かった。
が。
アパートのはずの住所にたどり着くとそこはパスタ屋で、
「うちは競売でこの土地を買いましたからねぇ、昔のことは分からないんですよ」
とオーナーに断言されてしまった。
ところが。
奇跡的にも、居合わせた常連客に、
「あー、橋元さんね。ちょっと前だけど、交通事故で亡くなられてねぇ」
とかろうじて消息を知る人があったのである。