【完】『轍─わだち─』

他方で。

主賓のはずの彬は、次々にあらわれる来客への挨拶で少しだけ疲れた様子で、

「めでたいはずなのに、なぜか気が重くなってぐったりしてくる」

と、さばかなければならない人の多さに、フィアンセの森島つばさについ、小声でこぼした。

つばさは耳元で、

「でも嗣ぎたいって言ったの、アッキーでしょ?」

とたしなめた。

「いや」

彬は続けて、

「おれはあんな父親の跡なんか嗣ぎたくないんだけど、他のことやらせてもらえなかったから諦めてさ」

と、場にふさわしくないであろう本音を漏らした。



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