【完】『轍─わだち─』
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さくらは中身を読んで驚いた。
いや。
驚いたなどというどころではない。
橋元静加が産んだ子は果たして穣の子で、橋元家から他家へ経済的な理由で里子にもらわれた経緯が詳細に書かれてあった。
それが。
「水墨画の講師・辻耀一郎である」
と文章は締め括られてあった。
「…辻さんって、まりあさんの彼氏の、あの人?」
さくらは病院の廊下で耀一郎を見て知っている。
「でもすぐ帰ろうとしたのは」
もしかして関わりたくないという意思があるのではないか、とさくらはさくらなりの考え方で、そう感じ取ったらしかった。
しかし。
彬はすでにアメリカでガーネットと入籍して市民権を取って、相続権は放棄するとの一筆が提出されてある。
それでゆけばさくらと大輔が百合子の分も含めて相続するはずであったのが、耀一郎にも血が繋がっている以上、
「権利があるってことなのかな」
大輔の会社の顧問弁護士でもある、今回の兼康家の担当をしている弁護士から話を聞いていたさくらは、あながち頭の悪い女性ではなかったようであった。