【完】『轍─わだち─』
六人中三番目に出てきた大輔は、得意の英語を活かしネイティブな発音を交ぜた弁論で会場を沸かせた。
追っかけや出待ちも出るほど女の子のファンがすでにいた大輔に、
「大ちゃーん!」
と黄色い声で客席は熱狂的となり、もはや優勝は確定的とも思われた。
しかし。
六番目に現れた耀一郎は、他の誰もやらなかった奇策を放った。
まず。
全員がスーツ審査のスーツのままでいたのに対し、耀一郎は時間があったのを逆手に取って、敢えて羽織袴という出で立ちで、舞台に現れたのである。
これには観客から、
「おぉーっ!」
と驚愕の声が上がった。
しかも。
それまでぎこちなかった標準語で話すのをやめ、
「僕は関西の育ちなんで、話しやすい関西弁で語りたいと思います」
と言い、ときおり観衆に質問を投げ掛けながら話を進めていったのである。
これにはいつの間にか、数百人はいた客席も耀一郎のペースにハマってしまい、話が終わる頃には、
「えぇーっ!」
と名残を惜しむ声まで上がった。