【完】『轍─わだち─』
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さて。
以下、余談となる。
晴れて夫婦となった耀一郎とまりあは新川崎の家を引き払い、まりあの故郷でもある奈良へ本拠地を移した。
出物だった古い町家を破格の値で借り受けると、ほとんど居抜きで教室を開いて、
「奈良町の耀さん」
と愛称で呼ばれるほど近所でも評判の良い講師になった。
片方の大輔は。
再び新しいネットのビジネスで名を上げたあと、コメンテーターや番組に返り咲いたが、社員がインサイダーで取引をしていた事件の詰め腹を切らされるかたちで社長を辞任すると、代表権のない役員になって飼い殺しになった。
つばさは映画の撮影のときプロモーションで知り合ったアメリカ人の若手の俳優と結婚し、のちに代議士に夫が転身すると、珍しいアジア系の代議士夫人として、地元で知られるようになった。