君への轍
装束のかたがたが順に席につく。

眼前で、「社頭の儀」が神妙に始まった。

勅使が御祭文を奏上し、御幣物を奉納しているその横で、こんな……こんな……。

頭から湯気が出そう……。


来賓の人々が本殿拝礼を終え、斎王代が退出するようだ。


「立つのも一苦労だな。」

薫の揶揄した通り、着慣れない十二単の所作は大変みたいだ。


「……神職さんや巫女さんは、さすがに着慣れてらっしゃるみたい。」

ぐるりと境内を見渡して、若そうな神職を探した。

どこかに、徳丸部長の彼氏さんがいるはずだ。



「馬!来た!」

薫の声がはずんだ。


見れば、二頭の馬がゆっくりと牽かれて歩いて来た。

「牽馬の儀、ですって。」

式次第を眺めて、あけりが小声で言った。



馬がぐるぐると舞殿の周りを三周する。

気が付いたら、斎王代の姿は消えていた。



舞殿で東游(あずまあそび)の舞が始まった。

これぞ、まさに王朝文化だわ。

あけりは、ゆったりとした雅びな雅楽と舞にうっとりした。



ふと気づいた。

あの源朝長も、かつて、宮中でこんな風な美しい世界の住人だったのだ、と。

それなのに合戦に身を投じ、敗戦して、自害……。

まるで極楽浄土と地獄絵図だわ。


ぶるっと震えが走った。



「大丈夫?寒い?」

薫が心配そうに、あけりの顔を覗き込んだ。

肩を抱く手に、少し力が込められた。


「少しだけ。でも、大丈夫……。」


あけりの言葉が終わる前に、薫は着ていたジャケットを脱いだ。

そして、あけりの肩に羽織らせると、横抱きにする勢いで抱き寄せた。


あったかいを通り過ぎて、熱い……。

あけりは、されるがままに、薫の肩に頭を預けた。



優雅な舞のあと、また、馬が走るようだ。



「風邪ひいちゃ大変だから、帰ろうか。」

耳元で囁かれて、あけリはこっくりとうなずいた。


本当に……熱が上がってるのかもしれない……。

足元がおぼつかなくて、よろけてると、薫が支えるように立たせてくれた。

多少気恥ずかしいけれど、支えられて歩くと、足がふわふわして、楽しかった。
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