君への轍
てっきり、社務所のような、神社の建物につれて行かれるのだと思った。

でも、マッチョな神職が連れて行ったのは、境内を東に出てすぐの立派なお屋敷……。

大きな門に掛かった表札の文字は「吉永」。


……えーと……。

「あの……吉永……晃之(あきゆき)さんの……ご家族か、親戚だったりします?」

あけりがそう尋ねると、マッチョな神主は目を丸くした。

「晃之は甥やけど。え?なんで?……あ。そうか。阿弥(あみ)ちゃんと同じ学校やな。お友達?」


あみちゃん?

一瞬考えて、はたと気づいた。

部長の名前って、徳丸……阿弥さん?かな?

ああ……そっか。

徳丸先生、観阿弥・世阿弥から名付けたのかしら。


「後輩です。能楽部の。濱口あけり、と申します。……吉永さん?ですか?」

あけりは、薫に支えられながらも、神職の吉永に頭を下げた。

「……はまぐち……あけり……。」

吉永は不思議そうに、あけりの名前を繰り返した。

何か、思うところがあるらしい。


じっと見ていると、吉永は苦笑して、懐に両手を入れて名刺入れを出した。

「ども。晃之の叔父の吉永拓也です。こっちが神社の名刺。で、こっちが本職の名刺。」


そう言って、吉永は2種類の名刺を、あけりと、それから薫にも手渡した。

「権禰宜(ごんねぎ)さん……で……あ。やっぱり、学校の先生なんですか!……体育ですよね?」

くすくす笑って、あけりが確認した。


吉永の頬が染まったのを見て、薫は苦虫を噛み潰したような顔になった。

慌てて吉永は咳払いして、重々しくうなずいた。

それから、聞きにくそうに、あけりに尋ねた。

「あけりちゃんは……もしかして、お母上の旧姓は……山口あいりくん?」

「え!?そうです!母をご存じですか!?」

驚いて、興奮しているあけりの頬に赤みが戻ってきた。


……もう横にならなくても大丈夫なのかな?

ハラハラしている薫をよそに、吉永とあけりは盛り上がった。


「……そうか……。や。あまりにもよく似てるから……びっくりしたわ。……お母さんは、俺の教え子や。……彼女は、元気か?」

「元気ですよ~。……母と私、そんなに似てますか?」


聞かなくてもわかっている。

中身はあまり似てないけれど、面差しは今でもよく似ている。
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