君への轍
ビクリと震えた母の肩を、継父がそっと抱いた。


「……いつか、こんな日ぃが来る思うてたわ。……まさか、初めての彼氏の訪問と重なる思わへんかったけどな。恐れてたことが一緒くたになってやって来ると、意外と悲壮感が薄れて、おかしみすら感じてきたわ。」

継父は苦笑してそう言った。


ぺこりと、薫が会釈した。


「ほんまは家族だけで話すべきことなんやけど……これも何かの縁やろ。でも、他のおひとさんには言わんといてな。……ママは……中学生の頃から憧れてた先生と、高校に入ってすぐ、つきあい始めたんやそうや。」

継父の説明に、あいりは小さくうなずいた。



あけりは、ぼんやりとかつての2人を想像した。

吉永拓也さん……いくつだろう。

少なくともママが13歳の時に23歳以上ってことよね?

ママも……10以上年上のヒトとつきあってたんだ……。


ちらっと横目で、薫を見た。

薫も、同じことを考えたのだろうか……。

多少安堵したらしく、あけりに口角を上げて見せた。

とりあえず、年齢差を理由に反対される心配は消えたらしい。



「おつきあいしてたのに、相手に知らせずに、私を産んだの?……別れた後で、妊娠がわかったの?」

あけりがそう尋ねると、ママの眉間に皺がよった。

泣きそうな顔になっちゃった……。


「いや。吉永先生はまっすぐなヒトでな。つきあうと決めた日に、ママの家に挨拶に来たし、その週末には自分の両親に紹介したそうや。……ママが高校を卒業したら結婚する気ぃやったんや。な?」

あいりがかすかにうなずく。


……だったら、どうして……。

口を挟みたいけれど、感情的になりすぎてしまいそうで……あけりは口をつぐんだ。


いつの間にか、薫があけりの背中に手を宛がってくれていた。

温かい手の温もりに、あけりの心が凪いだ。


「でも、1年足らずで妊娠してしもたんやな。まあ、早いっちゃあ早いけど、その時点であいりは16歳過ぎてたわけやし……高校辞めるなり、休学するなりして、結婚して出産するつもりやったんやけどなあ……吉永先生んとこが無駄に名家やったもんやから……きつう反対しはってなあ。」

継父の言葉に、あけりも薫も、思わず深くうなずいた。


確かに、どう見ても、名家!って感じだった……。
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