君への轍
「……まあ、何となくわかりました。……吉永さんには、あけりちゃんに関与する権利はないんですね。……じゃあ、あとは、あけりちゃん次第、だな。どうする?」

薫は吉永家に、後で連絡するとも、来週また出直して来るとも言っていた。

たぶん責任をもって、納めようとしてくれているのだろう。


あけりは、母のあいりを見て、それから小声で言った。

「……今さら……関係ない。……パパさんもいるし……。」


吉永家のヒト達に、あけりは要らない子として処理されたのだ。

少しぐらい拗ねても、仕方ないだろう。

いや。

むしろ、聞かなかったことにしてしまいたい。

自分の存在を全否定されたような気がして、あけりはおもしろくなかった。


血の繋がりが何だというのだ。

関係ない。


あけりの表情に頑なさを感じて、薫はうなずいた。

「わかった。じゃあ、俺からそう伝えるよ。……お母さんも……それでいいですね?」


あいりは真顔で何度もうなずいた。


ただ一人、継父だけが眉毛を八の字に下げて、ぼやいた。

「……嫌いで別れたわけちゃうんやし……吉永先生とこかて、知ってしもたら情がわくもんちゃうか?……あちらさんに、お子さんがいはったらええけど、もし跡取りがいてはらへんかったら……ちょっと厄介かもしれへんなあ。」

「関係ないもん。」

あけりはそう言い張って、思い出したようにご飯を口に運んだ。






「……ごめんなさい。」

車に乗り込んだ薫に、あけりは謝った。


薫は、謝罪の意味がわからず、キョトンとしていた。

あけりは、小声で続けた。

「明日から競走なのに……煩わせてしまって……。」


ふっ……と、薫は息を吐き出すように笑った。

「なんも。むしろ、あけりちゃんの大変な時に、俺が一緒にいてあげられて、よかった。……いや……この件だけじゃなくて、何かあったら、いつでも、矢面(やおもて)に立ったげたいって思ってる。」

そう言って、薫はそっとあけりの頬に触れた。

ドキッ……と、あけりの鼓動が跳ね上がった。


触れられた頬が……熱い……。


「……ありがとう。」

やっとそれだけ言ったら……何故か涙がこみ上げてきた。

泣く場面じゃないのに……。
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