君への轍
薫は、指の腹であけりの涙を拭った。
「どうしよう。帰りたくなくなってきた。……お父さんのお言葉に甘えて泊めてもらおうかな……あけりちゃんの部屋に。」
「え!」
あけりは思わず、ぴょんと飛び跳ねて、一歩後ずさりした。
プッと薫が笑った。
「冗談だってば。さすがにそこまで図々しくなれんわ。……おやすみ。日曜日、絶対勝つから、応援来てな。」
「……はい。」
真っ赤になって、あけりはうなずいた。
薫は軽く手を挙げて、車を出した。
……冗談……か。
いつまで冗談って誤魔化し続けられるかな。
薫は、やるせなく膨張した股間をなだめるべく、行きつけのソープへと向かった。
******************
週末は朝から慌ただしかった。
朝6時に、嘉暎子が彼氏の志智の車であけりを迎えに来た。
「……能楽部なのに、ずいぶんアクティブねえ。」
母のあいりは、単に能関係の史跡を訪ねるとしか思っていない。
「夜も遅くなるけど、ちゃんと家まで送ってくださるから心配しないでね。」
それだけ言い置いて、志智のアルトラパン・ルーシーの後部座席に乗り込んだ。
……帰りは薫に送ってもらうことも……薫を応援するために競輪場に行くことも……それどころか、薫が競輪選手だということも言わなかった。
途中のコンビニで、徳丸部長達と合流した。
「はじめまして。吉永です。」
吉永晃之は、伯父の吉永拓也に面差しは何となく似ていたけれど、体格は中肉中背で、一回り小さい気がした。
……血縁上は「いとこ」になるのか……。
あけりは無表情で会釈だけした。
そのまま志智のルーシーに戻ろうとしたら、晃之が引き留めた。
「こっちに乗らへん?」
不思議そうに徳丸部長は、自分の彼氏を見た。
おそらく、晃之は既にあけりの存在を家で聞いたのだろう。
あけりは渋々うなずいて、晃之の車の後部座席に座った。
晃之の車は、銀色のアウディだった。
ルーシーより広いし、乗り心地もいい。
だから誘ったのかしら……まさか……濱口さんに一目惚れとかじゃないわよね?
多少の不安を感じながら、徳丸部長は助手席に納まっていた。
「どうしよう。帰りたくなくなってきた。……お父さんのお言葉に甘えて泊めてもらおうかな……あけりちゃんの部屋に。」
「え!」
あけりは思わず、ぴょんと飛び跳ねて、一歩後ずさりした。
プッと薫が笑った。
「冗談だってば。さすがにそこまで図々しくなれんわ。……おやすみ。日曜日、絶対勝つから、応援来てな。」
「……はい。」
真っ赤になって、あけりはうなずいた。
薫は軽く手を挙げて、車を出した。
……冗談……か。
いつまで冗談って誤魔化し続けられるかな。
薫は、やるせなく膨張した股間をなだめるべく、行きつけのソープへと向かった。
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週末は朝から慌ただしかった。
朝6時に、嘉暎子が彼氏の志智の車であけりを迎えに来た。
「……能楽部なのに、ずいぶんアクティブねえ。」
母のあいりは、単に能関係の史跡を訪ねるとしか思っていない。
「夜も遅くなるけど、ちゃんと家まで送ってくださるから心配しないでね。」
それだけ言い置いて、志智のアルトラパン・ルーシーの後部座席に乗り込んだ。
……帰りは薫に送ってもらうことも……薫を応援するために競輪場に行くことも……それどころか、薫が競輪選手だということも言わなかった。
途中のコンビニで、徳丸部長達と合流した。
「はじめまして。吉永です。」
吉永晃之は、伯父の吉永拓也に面差しは何となく似ていたけれど、体格は中肉中背で、一回り小さい気がした。
……血縁上は「いとこ」になるのか……。
あけりは無表情で会釈だけした。
そのまま志智のルーシーに戻ろうとしたら、晃之が引き留めた。
「こっちに乗らへん?」
不思議そうに徳丸部長は、自分の彼氏を見た。
おそらく、晃之は既にあけりの存在を家で聞いたのだろう。
あけりは渋々うなずいて、晃之の車の後部座席に座った。
晃之の車は、銀色のアウディだった。
ルーシーより広いし、乗り心地もいい。
だから誘ったのかしら……まさか……濱口さんに一目惚れとかじゃないわよね?
多少の不安を感じながら、徳丸部長は助手席に納まっていた。