君への轍
「私は、吉永さんのお家とは関係ありません。」 

「甘いな。たくおっちゃんはともかく、おばあちゃんは、そわそわしてるで。……俺とあけりちゃんとをダメ元で見合いさせるとまで言い出したぐらいや。あ、もちろん断わったで。」

晃之は、慌てて助手席の部長に釈明した。

「……おばあちゃん、呆けたんちゃうか、ゆーといたわ。阿弥ちゃんのこと気に入ってるくせに、今さら何言うてんねん、って。……それじゃ、歴史は繰り返す、やん。」

歴史は繰り返す……か。

確かに、吉永の祖母はあいりのことを気に入っていたのに、堕胎を迫り、結果的にあいりも、あけりも失った。

今度は、あけりを手に入れるために、孫の恋人の徳丸部長を切り捨てるとか……学習しなさ過ぎるだろう。


徳丸部長は、不安そうに晃之を、そしてあけりを何度も見た。

あけりは、部長が振り向く度に、ぶるぶると手や首を振って見せた。






聡との待ち合わせは、美濃赤坂の駅前だった……が……。

「……駅前って……ココでいいのかな?」

「見事に……何もないわね……。」

「一応、喫茶店はあるみたいですよ?」

あけりは後ろから2人にそう声をかけたけれど、実際、空き地の目立つ、工場多めの住宅街という感じだ。


程なく、2両編成のワンマンカーが駅に入って来た。

日曜の午前中のせいか、車内にはほとんど人が乗っていないように見える。

聡も、周囲をキョロキョロしながら駅に降り立つのが見えた。


「わざわざここまで電車で来なくても、ホテルまで迎えに行ったのに。」

徳丸部長のつぶやきに、あけりは苦笑まじりに答えた。

「ホテルが大垣駅の近くで、道が渋滞しそうだから遠慮したみたいです。……もしかしたら、乗ったことのない路線に乗ってみたかったかのかもしれませんけど。」


いわゆる「鉄ちゃん」と言うほどではなさそうだが、小学生の頃、聡が同級生に犯罪の自覚なしにキセルの指南をしていたことを思い出した。

あの頃の、黒縁丸めがねをかけた色白のぽにゃまんとした男の子とは別人のように、日焼けした精悍な聡が車に近づいてきた。


「……こうしてみると、カッコイイね。」

徳丸部長のつぶやきに、晃之はジロリとねめつけ、あけりは……小さくうなずいた。
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