君への轍
確かに、かっこよくなったと思う。

「でも、聡くんは、ピストレーサーに乗ってる時が一番カッコイイです。」

照れ隠しにそう言ってみたけれど、言葉にすると、ますます恥ずかしいことを言っていることに気づいた。





「おはようございます。はじめまして!東口聡と申します。今日は、お世話になります。」

聡は、車のそばまで来ると、主に晃之に向かって頭を下げた。

「……や。どっちかゆーと、君らの計画に、俺らが参加させてもらうんやんなあ?これ。……こちらこそ、よろしゅう。」


遅れて、やっと嘉暎子と志智のルーシーが到着した。

聡は、そちらにも頭を下げて挨拶した。

嘉暎子は、目をキラキラと輝かせて、食い入るように聡を見ていた。




駅から10分かからずに、登山口に着いた。

県道沿いに、「史跡の里」や、簡単な案内図の掲示板が立っていた。

「……これは……確かに、独りでは来れないかも……。」

嘉暎子の顔が引きつっている。


「ね。サンダル、ヒール、革靴は無理でしょ?」

……とは言え、徳丸部長ほど本格的に山に登る格好はしていない。

どうしても、その後で薫と逢うと思うと……せいぜいジーンズにカットソーにとどめてしまった。


「この道を芭蕉も歩いたと思うと……感慨深いなあ。」

聡は、しみじみとそう言いながら、周囲の木々や、土や石まで愛しげに見たり触れたりしていた。


山といっても、そんなに勾配はきつくなかった。


しばらく山道を進むと、少し開けた場所に出た。

寺の伽藍跡のようだ。

芭蕉の句碑には、「苔埋む蔦のうつゝの念仏哉」と彫られていた。


「これ?お墓。……なんか……怖い……。」

句碑のそばには、供養塔と石仏が列んでいた。

確かに、嘉暎子の言う通り、ちょっと怖い気がする……。


「いや。まだ、先。……ここから少し降りるみたい。気をつけて。」

聡はそう言うと、さらにずんずんと進んだ。

これまでより険しく淋しい山道を下っていくと、いくつもの案内碑や看板が立っていた。

刀を置くための石まであった。

今はほとんど知られてない源朝長だが、かつてはもっとメジャーだったのだろうか。



「あれ?……1つじゃないんだ……」

嘉暎子が指さす。

「かえ、あかんて。お墓を指さしたら!」

慌てて、志智が嘉暎子をたしなめた。
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