君への轍
対照的に、徳丸部長は、お墓が目に入るやいなや、準備していたらしい数珠を手に掛けて合掌していた。

そして、晃之は、どこから持ってきたのか榊とお酒、塩、米を持っていた。


「お2人は信仰する宗教が違うんですね。」

かく言う聡もまた、ろうそくと線香を準備していた。


……気合いの入りかたが違うわ……。

あけりは、手ぶらの自分を恥じた。



石を積み上げて作った一角に、お墓らしい石塔が3つと、横に小さめの石塔が3つと石仏、さらにもう1つの石塔が並んでいた。

案内板に、奥の3つのお墓は右から、源義朝、源楽平、源朝長の墓と書かれていた。

脇の小さめのお墓は、朝長と共に切腹した家臣の墓らしい。


「……主君と同じ場所にお墓を建ててもらえるなんて……うれしいでしょうね……。」

しみじみと、徳丸部長がつぶやいた。


……うれしい?

あけりには、よくわからなかった。


ただ……先週観た池上宗真氏の朝長を思い出すと、自然に涙がこぼれた。

ふと横を見ると、熱心に手を合わせてお経をつぶやいている徳丸部長も、泣いていた。

聡は、さすがに泣いてはいなかったけれど、手を合わせたあと、まるでお墓と対話するように座り込み、周辺の雑草をむしっていた。






お参りを済ませると、再び山道を上り、下って車に戻った。

競輪場に到着したのは11時半。

聡の両親が有料の指定席とお弁当を人数分買っておいてくれたので、スタンドの上に上がろうとしたのだが……

「ガチョウ!?アヒル!?」

不意に嘉暎子が叫んだ。

「へ?」

観ると、バンクの中の池に白い愛嬌のある鳥が浮いていた。


「え?生きてるの?」

徳丸部長も身を乗り出した。


「確か、ガチョウよね?」

あけりは聡にそう確認した。


「うん。ガチョウ。前は10羽以上いたらしいけど、今は2羽かな?」

聡は、出走表を食い入るように見ていた。


「……もしかして……聡くん、車券……買う?」

恐る恐るそう尋ねると、聡はあっけらかんと答えた。

「うん。100円やけど。……あけりさんは、買わんの?師匠の応援車券。」

「……未成年と学生は買うたらあかんのよ?」

聡は、ニヤリと笑って誤魔化した。

……くやしいけど……かっこよかった……。
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