君への轍
「……あんなところに……。一緒に降りてくればよかったですね。」

あけりがそうつぶやくと、にほは肩をすくめた。

「これでいいの。集団に混じってしまうと、薫にあけりちゃんがわかりにくいでしょ?……さすが、聡くん。ちゃんと心得てるわぁ。」

「え……。」

そこまで計算してるんだ……。


さらにホームに戻ってきた薫に、中沢さんが大声で叫ぶ。

「水島くーん!頼んだよー!」


……何か……あっちからもこっちからも声援が飛んで……薫さん、めっちゃ人気者みたい……。


「実際大人気よ。ライン差し目が1番人気、薫の逃げ切りが2番人気。」

一旦指定席に戻ってから、オッズをプリンターで打ち出して、にほが見せてくれた。


「さすがだね~。まあ、いっつもそうゆうレースしてるからね~。水島くん、必ずラインで決めてくれるから。」

中沢さんは、ニコニコ同調しながらも、筋違いの車券を購入するようだ。



「ラインって?」

嘉暎子の質問には、あけりが答えた。

「勝つためにグループに分かれて走るの。地区別が多いかな。……ほら、薫さんは、後ろに大阪のベテラン選手と、滋賀の中堅選手を連れて3人で走るの。」


「つまり、大阪のベテラン選手が1着、薫さんが2着って言う二車単が一番人気。三連単でも、滋賀の中堅選手が3着が一番人気だな。」

晃之が補足説明すると、徳丸部長がうなずいた。

「薫さん1着は、二番人気なのね。……100円が750円になるの?へええ……。千円買っちゃおうかな。」


慌ててあけりは止めた。

「部長!確かに人気はライン決着ですが……そう簡単には決まらないかもしれません。」


「うん。僕もそう思うー。水島くん、ガチで勝ちに行く気だからさ……今日だけは捲りだと思う。……後ろは、ついてこれないよ。」

中沢の言葉に、あけりもうなずいた。

「……本当は逃げ切って優勝してほしいけど……ラインがちぎれて、1人だけの捲りになっちゃったら……内容のない走りって誹られちゃうかもしれませんね。」

優勝して、とお願いしたのはあけり自身だ。

でも、ただ勝つことだけを優先して、これまで積み上げてきた薫のスタイルと信頼を失ってしまうかもしれないと思うと……怖くなってきた……。


「とりあえずさ、あけりさんも予想してみなよ。」

聡にそう勧められ、あけりは、ほとんど何も考えずに、薫から頭流しで二車単の車券を購入した。


薫が1着にさえ来れば、2着に誰が来ても的中だ。

あけりは車券をお守りのようにお財布に入れた。
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