君への轍
「……無理しないで……。」

あけりを支えようと踏ん張っている阿弥に代わって、聡があけりの手を取り、背中を支えた。

「師匠に連絡したげるけど、たぶん出てくるまでまだかかるからさ、しばらく車でゆっくり休んどき。」


聡の言葉を受けて、継母のにほが電話をかけた。

「あ。出た。薫?優勝おめでとう~。」

『にお?……あけりちゃん、調子悪そうに見えてんけど……』

自分の優勝より、薫はあけりを心配していた。

「うん。そうみたい。とりあえず、うちの車でゆっくりしててもらうから。」

『わかった。ごめん。よろしく。なるべく急いで出るわ。』

薫は電話を切って、慌てて帰り支度を始めた。



「ねー、とりあえずさ!車券の払い戻ししないと。窓口、しまっちゃうよ。」

中沢さんの言う通りだ。

一応、今回同行した全員が2車単なり3連単なりを的中させた。


的中車券をにほに託して、あけりと聡はみんなより先に競輪場を出て駐車場に向かった。

「あけりさん……。もしかして、お墓参りで山に登ったのも……身体に負担かかったんかも。……ごめん。」

聡があけりを支えてゆっくり歩きながら、そう謝った。

「……やだ……やめて。聡くんが悪いんじゃないし。……山って言ってもちょっとだし……全然大丈夫。……むしろ、なんか、ごめん。……せっかく、薫さんが優勝して、みんなで盛り上がれるのに……。」

あけりはそう言って、ため息をついた。

「帰りに焼肉……行きたいんだけど……ダメかな……。」

「うーん……。正直、病院に行くか、早めに帰宅するか、近くにホテルとってゆっくり休んでほしいところだけど……みんなで焼肉の予定なんだよね?」

優勝できたことだし、師匠は気前よく、みんなにご馳走してくれるつもりだろう。

間違いなく、東口家の面々と中沢さんも、ご相伴に与(あずか)るのだろう。

……でも……この状態のあけりさんを、焼肉に連れ出して……いいのかな……。



駐車場にも既に車はほとんど残っていなかった。

東口家の車を目指してゆっくり歩いていると、黒いエルグランドがやって来た。

「あけりちゃん!」




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