君への轍
薫の言葉に、あけりは少しむくれた。

「もう!……せっかくお隣に来たのに……。触りたいし、見てたいねんもん。」


……マジか?

自分の耳を疑いそうになった。

いや……疑うべくは、あけりがからかっているかどうかと……本気で薫に依存しているのかどうか、だろう。

まあ、疑うべくもないが。

どうやら、本気であけりは薫に依存しているようだ。


「……俺も……いい?」

薫は、年上の余裕も何もなく、あけりにそう確認した。


あけりは何も言わなかった。

ただ、薫の腕にぎゅっと掴まって、身体を起こすと、そのまま薫の肩に頭を預けた。

あけりのしなやかな髪の感触が、薫の首元に、顎に、耳朶に……心地いい……。


ダメだ……。

薫は、再び路肩に車を停めた。

あけりは驚いて、薫の肩から頭を上げた。

すかさず、薫の両手があけりの頬を優しく包むように捉えた。


あ……これって……

……キスが、来る……?



目を閉じる暇もなく、薫の顔が迫ってきて……唇がそっと重なった。



……しちゃった……。

ファーストキス……しちゃった……。



でも、それで終わりじゃなかった。


あけりの目が潤み、うっとりしていることを確認すると、薫はもう一度唇を寄せた。



よし!

嫌がってない!



にゅるりと熱い舌が侵入して来ると、あけりは思わず目をカッと見開いた。

でも……逃がれることはできなかった。

されるがままに口の中を蹂躙されて……あまりの気持ち良さにうち震え……結局、目を閉じた。

あけりは、全てを受け入れていた。




違和感を覚えたのは、薫のほうだった。

血の味と匂いに気づいてしまった。


あけりが血を吐いたと、にほが言っていた……。

……全然……大丈夫じゃないじゃないか。

なのに、無理させて……こんなところまで応援に来させて……。


「……ごめんな。遠くまで来て……しんどい想いさせて……。」


離れてしまった唇の熱を名残惜しんでいるあけりに、薫はつらそうに謝った。


あけりも、気づいた。

「ごめんなさい。……血生臭さかったよね?」


薫は慌てて否定した。

「生臭くない。血の味はするけど……あけりちゃんは、唾液も血も甘くて、おいしいから!」

本気で力説する薫に、あけりの恥かしさが少し薄れた。
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