君への轍
車を出すと、あけりは一度はおとなしく助手席シートに身を納めた。

でもやっぱり触れていたいらしく……次第に手が伸びてくる。

名神高速道路に乗る頃には、再び、ぴとっと薫の肩にくっついていた。


……かわいすぎる……。

でも……大丈夫なのか?


「体勢……しんどくない?……無理せんと……楽にしといたほうが……。」


あけりはそれを聞くと、さらにずるずると薫のほうへと攻め行った。


エルグランドは車体が大きいので、運転席と助手席の間が広い。

薫の車は、真ん中にクッション素材のコンソールボックスが置かれていて、くっつくには邪魔すぎる。

あけりは、身体を大きく捻って、無理やり薫の太ももに頭を置いた。

膝枕、だ。

でも、前後にも左右にも直角に捻る姿勢をそう長くキープできるわけもなく……だんだん脇が釣りそうになってきた。

薫が、あけりの髪を、頬を……まるで、犬か猫を可愛がる用に、優しく撫で手くれるのが心地いいし、うれしいのだけど……ああ……もう……限界!

あけりは、靴を脱ぐと、膝を立てて、完全に仰向けに寝転んだ。

コンソールボックスが背中に当たってはいるものの、さっきよりはずっと楽ちんだ。

しかも真上に、薫のお顔。


やだ、これ……幸せすぎる……。

あけりは、やっと安心して、目を閉じた。


「困った子やなあ……。あんまり動かんといてな。……危ないから……。」

薫は苦笑してそう言った。

危ないのは、運転の邪魔とかじゃなくて……股間が、さらに堅く膨張してしまいそうだからだった。



薫の膝枕は、思った以上に心地よくて……あけりはポツリとつぶやいた。

「……さっき……私の従兄にあたるヒトが居たの。……わかった?」

あけりがそう尋ねると、薫は少し目を細めた。

「うん。わかった。……吉永晃之くん。……拓也さんに似てたなあ。」

「……そうかな。」

気に入らないらしく、あけりは口を尖らせた。



……かわいいなあ……。

薫の前で感情を隠そうとしない……それどころか、甘えたり、ワガママを言ったりするようになった。

あけりの変化が、薫にはうれしくてしかたない。



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