君への轍
一方、薫は、まさかあけりが和装で出てくるとは思わず……最初は、よく似た姉妹がいるのかと遠巻きに眺めていた。

あけり本人だと気づくと、心底驚いた。


着物だ!

サムライ!フジヤマ!ゲイシャガール!

キモ~ノ!!!




薫は、商社マンの父の仕事の関係で、高校時代をカリフォルニアで過ごした。

自転車を覚えたのもアメリカだ。

ロングビーチやL.A.の街中を疾走するうちに、自転車仲間が増え、本格的にロードレースに参戦し始めた。

帰国後は、普通に大学を卒業し就職するはずだった。

しかし、競輪のレースを生で観戦して、気持ちが変わった。


やれるところまでやってみたい。

大好きな自転車で、自分がどこまでできるのか……限界に挑戦したい。

その一心だ。





「着物!似合うね!」

月並みな言葉だが、薫は心から興奮し、はしゃいでいた。


L.A.での生活は、日本という国、日本文化、日本人に対する愛着をより深めた。

それから、もう一つ。

かつてL.A.の日本人学校でクラスメートだった友人の碧生(あおい)が、日本人形のような大和撫子と結婚した。

オリエンタルな美しさに憧れを抱いたのは、彼女の影響もあるだろう。


薫は男ぶりも、性格もいいし、お金にも不自由していない。

昔から、付き合う女性が途切れたことはない。

だが、デートに着物で来る子とは、今までかつて付き合ったことがない。


……夏の夜の浴衣や、あるいは、水商売の女性の仕事着としての着物しか、縁がなかった気がする。

あけりのように素人の、それも女子校生!、しかもとびっきりの美人が着物で自分に逢いに来てくれた……。


その事実が、薫を有頂天にさせた。



「……ありがとうございます。……水島さんは……普段も、派手なんですね。」

薫は、あけりが自分の格好にあまりイイ印象を受けなかったことに気づいた。


……しまった……。

あけりは、普段付き合うことの多い派手系の女性とは、やはり一線を画するようだ。

「……あはは……におにも……よく怒られてたの、忘れてた。ごめんごめん。」


聡の継母のにほだけは、薫に地味な格好をしてくるようにと、わざわざ注文をつけていた。

これからは、あけりと逢う時には、気をつけよう!……と、薫は心に誓った。

……これから、があれば……の話だが。
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