君への轍
にほには釘を刺されたが、このままホテルに連れ込んでも拒絶されない……気がする。

一瞬、甘い欲望を抱いたが……すぐに打ち消した。

明らかに体調が悪い子に、何を邪(よこしま)なことをしようとしてるんだ!俺!

いや、体調が悪いとか、そういうレベルじゃないだろ。

血を吐いたんだぞ。

昔なら、死に直結する事態だぞ。

……いたわってあげなきゃいけないのに……鎮まれ、欲望……。



薫は、自分を落ち着けるために……これまで避けてきた話題を切り出した。

「あけりちゃん。……興味本位じゃなくてさ、本気で心配やから……聞いていい?あけりちゃんの病気って……悪化したらどうなる?」


びくりとあけりの肩が揺れた。


……まずかったか……。

一瞬後悔したけれど、あけりは……観念して口を開いた。

「個人差があるから、わかりません。亡くなったかたも、もちろんいらっしゃいます。……進行性の難病なので……私がこれからどうなるかは……何とも言えません。」

そう言ってから、あけりは悲しそうに続けた。

「10年生存率ってわかりますか?発症したヒトが10年後に生きてる確率です。……私が発症した時には、40~80%と言われました。低いのか高いのかわからないですよね。」

「え……。」


ちょっと待て。

10年後に生きてる可能性が、40%……から80%……って……幅広すぎるけど……どっちにしても死ぬ確率があるのか!


薫の表情が固まったのを観て、あけりは慌ててつけ加えた。

「でも、よくわからない数値なんです。……今は、肺移植で生きながらえるかたも増えたし、私も認可されたばかりの新薬を飲んで進行を抑えてますし……。」

「移植……。」

何とも言えない顔で、薫はつぶやいた。


つまり、病気の進行って言うのは、肺が機能しなくなるということか……。

移植で健康な肺に交換したら、生きられるのか?


「私は、今はまだ肺移植も、酸素を吸う必要もないですけど……今後の進行スピードはわかりません。」

「酸素……。」
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