君への轍
始業前に、徳丸部長と嘉暎子が相次いでやって来た。

あけりの身体が落ち着いていることを確認すると、心から安堵しているのが伝わってきた。

2人は、続いて、薫の優勝を褒めちぎり、ついでに焼肉がいかに美味しかったかを報告をした。


昼休みにも2人はやってきた。

徳丸部長は、お弁当を食べながら愚痴った。

「まあ、……まさか、濱口さんと晃之さんがいとこだとは思わなかったけど……しかも、まさか、今さら、吉永家が私を排除して、別の嫁を望むとか……もうね……今までの懇意は何だったのか……既に姑に不信感抱きまくりよ。」

あけりとしては申し訳なく思う部分もあるのだが、口出しすることは僭越かもしれないと、ただ神妙に、聞き役に徹した。


「えー、でも、彼氏さんは、あけり先輩に浮気しそうにないんでしょ?ちゃんと阿弥先輩を大事にしてはるように見えましたよ?」

嘉暎子のフォローに、徳丸部長は苦笑した。

「プライドの高いおぼっちゃんだから、ね。……東口聡くんにも、水島さんにも敵わないって判断しただろうし、濱口さんとはむしろ距離をとるんじゃないかな。」


……冷静だけど……身も蓋もないな……と、あけりは引きつった。

徳丸部長は、彼氏を盲目的に崇拝してもいないし、あけりのことはやはり「求塚」のように2人の男をはべらかしているように思っているのだろうか。


「でも、濱口さん。……吉永家って……ちょっとめんどくさい家よ?……このままですめばいいけど……。」

「……別に認知や財産分与を求めるわけでもありませんし……無関係の他人を貫き通すつもりです。」

「それもさびしいけどね。無難に、冠婚葬祭にだけは末席に列(つら)なる親戚ぐらいの関係に落ち着くといいわね。」


妙に現実的な徳丸部長に、あけりはしぶしぶうなずいた。






その頃、薫は、退院した師匠をエルグランドで運んでいた。

「まさか競走終わった深夜に東京まで往復させられるとは思いませんでしたよ……。」

薫のぼやきを、泉は鼻で笑った。

「アホか。ほんまは先週退院できたのに、薫の競走終わるまで待ってたんやないけ。おかげで優勝してんろ。よかったな。俺のおかげやで。」

「……そりゃ、どうも。」
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