君への轍
「……まあ、アドバイスするとしたら……子供は作らんときや。」

高速道路を降りて、あと少しというところで、泉は突然そんなことを言った。


薫は、ため息をついてうなずいた。

「……そうですね……。どうも、彼女の病気、妊娠とか出産することで進行するヒトも多いらしくって……。……それなのに子供を望むのは俺のエゴですよね。」

あくまで、薫はあけりの身体を思って、そう言った。

でも、泉の思惑は全く違った。

「ふーん。ちょうどええやん。……再婚するときに、コブはおらんほうが楽やからな。」

「……師匠……。お願いですから、彼女が死ぬ前提で、話さないでくださいってば。」

薫の嘆きを、泉は鼻で笑った。

「死なんでも、離婚でも同じことや。……子供がおったら、別れても金は払わなあかんし、大変やで。……新しくできたらできたで、逢えへん子に気がねして、目の前の子ぉを素直に可愛がれへんもんやしな。」

「はあ?なんすか?それ。……師匠、不器用すぎでしょ。別に2人とも精一杯可愛がってやりゃいいじゃないですか。」

泉の経験談なのだろうが薫は思わずそんな風に言ってしまった。

案の定、泉はムッとしたようだ。

「うるさいわ。ええ歳してチョンガーのくせに。」

ちょんがあ?

「なんすか?それ。日本語ですか?」

「アホか。帰国子女ぶりっこすんな。」

泉は、後ろから薫の後頭部を叩(はた)いた。





師匠を自宅まで送り届けた後、薫はすぐにあけりのもとへと向かった。

ラインのメッセージによると、あけりは登校したらしい。

いつものように学校の正門近辺で駐車して……そのまま薫は運転席で目を閉じた……。

さすがに疲れがどっと出たのだろう。


終礼を終えて、学校を出たあけりは、薫の黒いエルグランドを見つけてて近づいた。

「……薫さん?……寝てるの?」

ドアを軽くトントンと叩いても、薫は起きる気配もない。


なんだか……昨日と別人みたい……。

無精髭を生やし、目の下に隈ができ、……頬もこけてるみたい。


……どうしよう……。

起こすの、かわいそうかな……。
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